勝ち気でおしゃべりですが、純情なところもある髪結いのお崎が亭主のことで仲人に相談に来ています。
仕事で遅くなったのが原因で夫婦喧嘩になり、もう別れたいと言うのです. 毎度のことなので仲人もなれたもの。
今回は二人にお灸をすえるつもりで、女房を働かせて昼間から酒を飲むようの男はろくなものじゃないと亭主をけなし、お前さんの思うとおり別れておしまいと焚きつけました.
止めるはずの仲人にそう言われると、お崎は穏やかじゃありません。本当はとても優しい男なんですよ、と年下の亭主を褒めはしますが、人情があるのかどうか本心がつかめなくて不安なのだと打ち明けます.
そこで仲人は人の心についての例え話を始めました.
初めは唐土(もろこし)つまり中国の孔子の話です。おしゃべりのお崎は唐土のことをお団子と間違えたり孔子を役者の幸四郎だと思ったりしますが. めげずに仲人は話し続けます。
「孔子が一頭の白馬をとても大切にしていんだな。ある時孔子の留守中に白馬のいる厩(うまや)が火事になった. 家来は白馬を救おうと努力したが失敗。
しかし帰ってきた孔子は家来の無事を喜び馬のことは何も言わなかったんだな。
本当の人の偉さと言うのはこういう時にわかるのものなんだ」
と仲人はお崎を諭しました.
仲人はもうひとつの話を続けます。
「 とても瀬戸物に凝っているある屋敷の主人が客に高価な瀬戸物を見せた後で妻に片付けるように言いつけた. ところが妻は大事にそれを運ぼうとしたがうっかり階段で足を滑らせ瀬戸物もろとも転げ落ちてしまったんだ。さあ その後が問題だ。主人は瀬戸物が割れなかったかどうかだけを気にかけ妻の体を心配しなかった. それが原因で妻は実家に戻ってしまった。人づてに話が広まったのでその主人は未だに独身者だということだ。
不人情とはこういうことを言うんだ」
仲人はこう締めくくります。この話にお崎は
「家のも瀬戸物に凝ってるんですよ」
と言い出しました. そこで仲人はそいつを壊して瀬戸物と女房の体のどちらかを気遣うか試してみろと持ちかけました.
お先が家に帰ると亭主が食事の支度をして待っていました. チャンスとばかりに亭主が大切にしている茶碗を手に持ち仲人に言われた通りに足を滑らせたふりをして大げさに行くにひっくり返ってみせました。
驚いた亭主はあわてて駆け寄り、割れた茶碗には見向きもせずにお崎を抱え起こします。
「あぶねえ、どっか体に怪我はねーか」
「嬉しいねえ、そんなに私の体が大事かえ」
「あたりめえじゃねえか、お前が怪我をしてみろ、明日から遊んでて酒が飲めねえ.」
昔髪結いの亭主といえば今でいうキャリアウーマンの代表選手. その髪結いの女房の年下の亭主へのいじらしい程の気持ちがこの噺の聞き所です。
亭主の言葉にはたしてお崎さんは救われるのでしょうか. 人情の機微を感じさせますね。
「厩火事」の題名は孔子のエピソードからきています。
(参考:古典落語100席 PHP文庫)
コメント
我が家も妻あっての夫か?
夫合っての幸せか
どっちが賢い?
ヘルシーママさん
夫婦も古くなると、お互い空気みたいなもんで、どこで何をしようと気にもしなくなる。それでいて、なければ困るし、そんなもんですね。
この落語、昔聞いたことがあるけど、ほのぼのとしていいですね。
連れ添って45年になる古女房が、わがやの山の神。
新婚時代にかみさんが、かぜで熱をだしました。
時代が時代ですからコンビニが近くにあるわけもなく、
買い置きの即席ラーメン(3分間待てばいいカップ
ラーメンはまだない時代)を準備。
卵を落として食べさせたいと…。
かみさん曰く、病人が食べるような代物じゃないと
拒否。
それ以来、ことあるごとに、「あの時別れておけば
よかった。」がかみさんの口ぐせに。
そんなことを思いながら人情話を読ませてもらい
ました。(冷や汗)
ほう、でも口にできるということは、奥様の本心はそうではないということですね。
ごちそうさまです。