え~、お笑いを一席申し上げます。
ご隠居さんのお宅に熊さんが来ております。
「ねえ、ご隠居さん、ちょっと分からない事があるんですがね」
「どうしたんだい」
「 この新聞の記事によると賊は窓をバールのようなもので破って侵入したと書いてあるんですが見てもいないのにどうしてバールだってわかるんですか」
「 あーそれはね、バールのような物ということはバールではないということなんだ」
「え、どういうことですか」
「ほら、よく言うだろう、あいつは男のくせに女の様なやつだと。女の様な
ということは女ではないということだ」
「はあ、なるほどね」
「それから良い年をして子供のようなやつだとも言うな。この場合は、子供ではない大人だということだな。つまり、のようなものと言ったら、そうではないという意味になる」
「なるほどね分かりましたそれじゃあ今日はこれで」
熊さんが帰って行きまして1週間ほどたってまたやって参りました。
「ご隠居さん、ちょっと聞いてくださいよ」
「おや熊さんどうしたんだい」
「実は今日、会社の女の子から家に電話がかかってきてね、女房のやつが、ちょっとあんた会社に愛人でもできたのかい、ってこう言うんですよ」
「ほう、で、どうしたんだい」
「だから、言ってやったんですよ。ああ、ありゃあ愛人なんかじゃない。愛人のようなものだ ってね」
「ええっ、愛人のようなものだって言っちゃったの」
「そうなんですよ。だって、のようなものっていうのはそうじゃないってことでしょ」
「いやあ、熊さんね、愛人にようなものを付けて愛人のようなものと言ったら、 これは愛人そのものになるんだな」
「だって、バールのようなものと言ったら・・・」
「うん、バールの場合はそうなんだけど、愛人のようなものと言ったら、これは愛人そのものなんだなあ」
「うそぉ、そんなこと知らないから女房に殴られてこんなコブができちゃいましたよ」
「コブができた、どれちょっと見せなよ。あれ随分大きなコブだねえ、一体何で殴られたんだい」
「はい、バールのようなもので・・・」
おあとがよろしいようで。
この噺 は阿刀田隆さんの原作で、立川志の輔さんが演じた話でございます。それをずっと短くしたものなんですが、日本語の面白さと言うか難しさが問われている噺ですね。
こういうところに気がついたという阿刀田さんは、やはり鋭い感性の持ち主だったんですね。
皆さん、のようなものを使う時は気をつけましょうね。
コメント
面白いですね!
読んでいて思わず笑っちゃいましたよ。
日本語って使い方で意味が全然変わってきますよね。
勉強になりました。
とほほほ;;;
こりゃ
参った
バールのようなもので殴られた
世の中にはバールのような腕を持つ女房がおるおる
あちきのの二の腕は、立派なもんだぁ
コブなんぞは軽いもんさ、、こわっ
言葉って面白いけど、時には人を痛めつける武器にもなるから、気をつけなくてはね。
面白い、面白い。
トミーさん、ありがとうございます。
でも本当の面白さは、文章で読むより、演じている落語を聞く方が断然ですよ。