誕生日というのは大人になっても楽しみなものでございます。
長屋のとめさんも自分の誕生日に友達を呼んでいます。
「さぁ遠慮なく入っとくれ、どうせ茶しか出さないんだから」
「おいおい誕生祝いだってのに、茶だけかい」
「子供の時からの友達と昔の話でもして楽しもうってんだからね。うん?ひで坊、顔が真っ青だけどどうかしたかい?」
「途中で蛇が出てきやがってもうを飲まれちまうかと思った・・・」
「飲まれるってそんな大蛇かい?」
「一尺(30センチ)はあったな」
「太さがかい」
「長さだよ、そんなに太かったらとっくに蛇の腹ん中で溶けてら」
「このバカ、そんなもん育ちの良いミミズみたいなもんじゃねーか」
「ミミズだって怖い!」
「みんな聞いたか、ひで坊はミミズが怖いんだって」
「それだけじゃない、ウナギだってドジョウだって怖いんだよ。ウドンもソバも食えねえ。長いものは何でもいけねえ。だから俺は運動会でハチマキもしなかった」
「はあ、虫が好かないてのはそんなもんかね」
「ひで坊の隣、お前は怖いものあるかい」
「カエル.」
「カエル?あんな可愛いのが?」
「パクッと口を開けるのがいけない。 だからがま口もこわい」
「財布がこわい?その隣は」
「あり」
「あんな小せえもんが?」
「そっちは?」
「クモ」
「ああ、クモは気持ちが悪いな。形が悪いや」
するとそれまで黙っていた松と言う男が身を乗り出しました。
「情けねえ奴らだな。ミミズがこわい? あんなもん水で洗ってつゆかけてソウメンがわりに食っちまうぜ」
「ミミズを食うのか?」
「ミズだけじゃねえ、ありはゴマの代わりに赤飯にかけちまわ。だけど時々ゴマが走り出して食い辛い。クモなんか納豆と一緒にかき混ぜると糸を引いて美味いの美味くないのって」
「おいおい随分強気に出たもんだな。でも松ちゃんにも怖いものがあるだろう」
「そんなもんないね」
「そらおかしい、何かあるだろう」
「しつこいなあ、せっかく思い出さないようにしているのに。それは俺だって怖いものがある。だけど言ったら笑われるから言わない」
「誰も笑わないよ。みんな怖いものがあるんだ言ってみろよ」
「本当に笑わないか?」
「笑わないよ、約束する」
「じゃあ言うけど、実は俺はまんじゅうが怖い」
「まんじゅうって、中にあんこが入ってるやつ?栗まんじゅうとか」
「栗が入っていたら気を失う」
「ぷっ、あはははは」
「やい!笑わねえって言ったじゃないか。 もう帰る」
「待ってくれ俺が悪かった謝るから帰らないでくれ。それに松ちゃん顔色が悪いぞ」
「おめえがまんじゅうのことを思い出させるからだよ」
「それはすまねえ。それじゃあ布団しくから寝てってくれ」
というわけで、隣の部屋に松ちゃんを寝かせたのですが・・・
「おいみんな集まってくれ、俺はどうも松の野郎が気に入らない。ヘビがこわいのはおかしいなんてえらそうに言いやがってたからな。これからみんなでまんじゅうを買ってきてあいつの枕元にずらっと並べちまおうじゃないか」
「それはまずいよ、話だけで寝込んだんだまんじゅうを見たら死んでしまうかもよ。まんじゅうだけにこれが本当のアン殺・・・」
「つまらないシャレを言ってんじゃないよ、いいから買って来いって」
さあそれから皆で手分けをしてまんじゅうを買ってきました。
「栗まんじゅうにソバまんじゅう、くずまんじゅうもあるな。これはあんまんか。これを枕元に並べてと・・・おい松ちゃん起きろよ!」
「・・・う~ん、よく寝たおかげ気分もだいぶ良くなった・・うん?」
松ちゃんずらりと並んだまんじゅうにびっくり。目を白黒させて
「まんじゅう!、こ、こわい・・・」
「見ろよ、の野郎びっくりして固まっちまったよ。ざまあみろ!」
ところが大喜びの皆の前で松っちゃんはいきなり栗まんじゅうにかぶりつきました。
「こんな強いもの見たくねえから食っちまおう。これはいいアンコだ怖いなー、怖い怖い。こっちのくずはどうだあ。これも甘くて怖い」
あっけにとられる皆をよそに松ちゃんは次から次へとまんじゅうをむしゃむしゃ食べていきます。
「ああ、とても全部は食べきれねーよ。怖いから持って帰ろう。風呂敷はないかい?」
「何が風呂敷だ。お前俺たちを騙しやがったなもう許さねぇ、今度こそ白状しやがれお前は本当は何が怖いんだ」
「へへへ、今度は一杯の熱いお茶がこわいや」
みごとにみんな騙されました。松ちゃんは知恵者ですね。
【参考:心をそだてるはじめての落語(講談社)】
コメント
なんと
まぁ、、、
お松さんの知恵はたいしたもんですね〜〜
悪気がないのか?
ずるがしこいのか?
話を聞いてくれた相手が
騙されやすいのか?
どのレベルの知り合いなのか、、、、
冗談にも
心許してないと
おまんじゅうも、、、
ほにゃらら、、、
面白いお話でしたぁ
面白い話ですね(#^.^#)
お茶目な松ちゃんですね。
こんな友達がいたら楽しいでしょうね。
次回の話も楽しみにしています♪
これは古典に入る噺で、よく知られたものです。
もちろん、短くはしてあります。
このお話聞いたことあります。
面白いですね。